HipHopの車窓から


Prefuse 73 / Surrounded By Silence
 (2005, Warp)

 今や説明不要のエレクトロニカ以降のヒップホップ界の革命児、アトランタ出身Guillermo Scott Herren(以下スコットへレン)のPrefuse 73名義での3rdアルバム。先行の日本盤がとっくにリリースされ、もう今更という感じですがこれだけは紹介させてください。
 ボーカルをまるでビートのように切り刻む、ボーカルチョップという言葉・手法を生み出した衝撃のデビューアルバム『Vocal Studies & Uprock Narratives』。以後、次々とフォロワーというべきかパロディというべきかわからないアーティストの出現に嫌気がさし、それに対するアンチテーゼ的にエレクトロニクスと、アーティストとのコラボレーションによって何かを見出そうとしていた『One Word Extinguisher』。昨年久々に活動を再開させたSavath & Savalasではスペイン人女性ボーカリストEva Puyeulo Munsをメンバーとして迎え、彼のルーツでもあるスパニッシュ音楽やブラジル音楽を彼なりに消化し、ギターを中心とした楽器による生演奏と少々のエレクトロニクスによるスパニッシュ・サイケデリアとでもいうべき音を確立し、『Apropa't』『Manana』と短期間で2枚の大作(『Manana』はEP)を生み落としました。そして新たな名義である、ピアノとドラムの音のみで構築されたスコットへレン流フリージャズとでもいうべき、Piano OverlordとしてEP(レコードのみ)を昨年の秋のリリースと枚数を重ねるごとに音楽ファンを感嘆させ、「ビート・イノベイター」という名にふさわしい活躍を見せてきました。
 そんな彼がPrefuse 73名義として2年ぶりに放つ今作の一番の特徴は、ほぼ大半がコラボ作であるということです。ざっと私の知るところを挙げるとウータンのGhostface、Masta Killa、GZA、Aesop Rock、元Company Flow/Definitive Jux総帥El-P、同レーベル所属S.A. SmashのメンバーでもあるCamu、フルアルバムを待たずして日本でも人気上昇中のジャム系ポストロックバンドBattlesのTyondai BraxtonUbiquityが誇るダウンテンポ・サイケデリアの雄DJ Nobody(id:IziphoZam:20041008)、元Anti-Pop ConsortiumであるBeans、Town and CountryのJosua Abrams、良質なバンドを送り出すケルンのTomlab所属のフォークトロニカ・アーティストThe Books、ロンドンをベースに活動する26歳の新鋭エレクトロニカ/ヒップホップ・クリエイターPedro(id:IziphoZam:20050301)、音響ポップ・バンドBroadcastなどなど。
 1st、2nd、そしてSavath & Savalasと、サウンドに微妙に変化をつけながらもそれら全てがスコットへレンの奏でる音楽と一聴してわかる、彼の独特のグリッチ音は今作も全編的に採り入れられていて、同様にドラム音とエレクトロニクスを交えたビート構築、美しいメロディーも健在です。スコットへレン自身が今までやってきたことの‘集大成的な作品’として捉えているように、生演奏も多用しドラム、ギター、ベース、キーボードなどを演奏したとか。オススメは、牧歌的でありながらもどこか哀愁さが漂うカントリー・エレクトロニカ「Pagina Dos feat. The Books」[M-7]、サイケデリックな雰囲気とオーガニックなグリッチ音が織り成すこれぞコラボ作「La Correcion Exchange feat. DJ Nobody」[M-16]、ドラム・インプロとフリーキーにうねるエレピによるスピリチュアル/フリー・ジャズ的な音からファンシーで夢見心地のようなサウンドへと拡がるエンディング曲「And I'm Gone -Prefuse VS. Piano Overlord VS. Broadcast VS. Cafe Tacuba」[M-21]。スコットへレンの音をまだ聴いたことがないという方は是非お試しを。

【関連サイト】
http://www.prefuse73.com/
【試聴】
http://www.cisco-records.co.jp/cgi/title/techno/detail_127334.php